雨が繋いだアバカの糸で・・・

細い雨は
薄墨の空と庭土を繋ぎ
生垣のツツジに染まって
静謐に地に沈む
緑雨はうつせを潤おして降る

そんな情景がひょっこり顔を出して暖簾の製作とリンクした。
そのリンクをきっかけに、染や織の技法などの製作要素が明らかになり、アバカ糸で織る暖簾の具体的な設計図へと繋がっていった。

この経緯を料理にたとえるならば、パプリカとドライマンゴーがリンクしてマリネを作ろうと思いつく。するとそのマリネに必要な材料や作り方の手順が次々に繋がって、料理全体が具体的に見えてくる。それと似たような感じだ。

さて、アバカというのはフィリピンに生息するバナナによく似た植物で、奄美・沖縄地方の芭蕉(バショウ)と同じ仲間。そのアバカの繊維を細く裂いて繋げたアバカ糸は、とても軽く、張りがある。そして美しい光沢を放つ。このアバカ糸の特徴をうまく活かせば、清涼感のある上品な織物となる。

このたびの暖簾の制作は、アバカの細い糸を撚り合わせて織り糸を作る。その糸を絣の技法で染める。そして織る。という流れで進めていくことにした。緑雨のイメージを柱に、清楚で美しい暖簾にしたい。と意欲をみなぎらせて制作にとりかかった。

ところが最初の糸撚り工程で、はや試練。アバカの糸は一筋縄ではいかないツワモノだった。強いがゆえに想定以上の糸切れが起こる。糸はピチッと音を立てて切れる。「まるで君のようだ」という夫の声が聞こえる。ピチッという音。糸を撚る手を止めて繋ぐ。作業は牛の歩みである。

一旦作業を中断して寝っ転がっていると、どこかで見聞きした「芭蕉布は糸を濡らしながら織り進む」という話を思い出した。
そういえば、アバカはとても水に強い糸でもあった。兎にも角にも、芭蕉布方式を試してみよう。
と、霧吹きで糸を濡らして糸撚りを再開したところ、糸の絡みはおさまり、糸切れの回数は激減した。芭蕉布方式は見事にアバカにも通用して、作業はようやくしなやかに動き始めた。
濡れたアバカの糸の手ざわりは優しく、ツヤツヤと輝いていた。

霧吹きを片手にアバカと過ごした2018年の夏。工房の一角は雨が降ったように濡れていた。そして、暖簾とリンクした雨の情景は通奏低音となって流れていた。

一夏をかけて織り上げた暖簾は二組。そのうちの一組は嫁入りし、もう一組は手元にある。布と自然が共に生きることの大切さを学びながら作ったこの暖簾を、これから先の人生の折々に、一人でひっそり眺めて過ごそうと、3つの展覧会を経た後、自分のタンスに仕舞っていた。
ところが先日、ギャラリー手児奈(てこな)40周年記念企画『テーマは、らしさで』への
出品作品に、この暖簾が候補に上がった。

一旦、自分の箱に納めた娘を外に出すには「思い切り」が必要だ。さて、どうしよう。と寝っ転がって、暖簾を見上げること数日。。。

『 手児奈さんへ。秋雨の候のこの度の展に、アバカの暖簾を出品いたします。どなたかとの佳き出逢いがあることを願っています。清水まゆみ 』

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