ヤクの糸とヤクの糸で織ったショール

ヤクのストールを織りだす前に

6年間休止していた織物を再開するにあたってリハビリのために織ったヤクの毛のストールを愛用している。
ヤクはヒマラヤ山脈等の標高3000m以上の高地に生息している寒さに強い動物。そのヤクの毛に感じる「強さ」のようなものに惹かれて選んだ糸だ。

厚手ではないけれど、暖かくて、シワになりにくいヤクのストール。雨雫をはじいてくれるので、頭から上半身を覆ってしまえば小雨はしのげる。外出時に羽織るのは勿論、ブランケットとして膝にかけたり、お尻に敷いたりもしている。重宝を超えて、秋冬に私を守ってくれる相棒的存在だ。

昨年秋の展覧会の折に、このヤクのストールをご覧になったギャラリーのオーナーが「ヤクのショール展」やりますか?と声をかけてくださった。
だが、嬉しい気持ちと同時に戸惑いもあって、返事に窮した。自分の織ったストールよりも、もっともっと素敵で、佳い仕事をされている方はたくさんいらっしゃると思っているし、これに価格をつけるとなると贅沢なお値段になる。オーナーからの思いがけない申し出をひとまず据え置き、ギャラリーを辞した。

復路のフェリーに乗船してからも、ヤクのストールのことに思いを巡らせていたところ、ウールの糸を仕入れ販売されている知り合いに遭遇して、夕食をご一緒させていただいた。

ヤクの毛は、糸を布にするとその良さは増し、布は使えば使うほど、ますます良くなっていく不思議な毛だね。」という話しを聞いて「作りたい」と言う気持ちがムクムクと沸き起こってきた。ルーレットの矢印が「ヤクのショール展開催」という文字盤のど真ん中でぴったりと止まったみたいに、心は定まった。

だが、この冬の展覧会がひと段落して、手に入れたヤクの糸に触った瞬間。怯んでしまった。

「黙って俺について来い」という私の得意とするやり方は通用しないよ。と糸からお声がかかったみたいだったから。

だが、糸を触っているうちに、待てばいいんだとうことがわかってきた。「さあどうぞ」と何かが囁いてくれるまで待てばいいんだと。
そのささやかな声を聞き逃さないように糸を眺め、糸を触る。その時間は、ストールを織り始めるまでの大切な準備の時間だ。はやる気持ちをなだめつつ、ただ触る。

先日、展覧会開催が2020年2月に決まった。試合開始だ。「On your mark!」「Set!」すっきりと心を澄ませて「Go!」の合図を待つ。私に残された時間はそう多くはない。でもフライングはしない。合図が来るまで糸を眺め糸を触る。

長いこと仕事をしてきたけれど、こんなにじっくり待つのは初めてだ。

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