「ずいぶん色づいてきた」整経の準備中にふと手が止まった。(整経とは、織物の経糸の長さと本数を揃える作業)
撚り終えた糸を巻いた管の合間から、遮光カーテン越しに見える葡萄の実。20房以上は下がっている。夫は毎日、その実を嬉しそうに眺めているんだけど、私はそこじゃないんだなあ。気になるのは葉っぱの茂り具合。
葡萄は鉢植えでも楽しめるという話を聞いて、昨年2鉢植えてみたところ、なかなか素敵なグリーンカーテンになった。
室温36度を平気で突破する酷暑の工房では、ゴーヤやフウセンカズラよりも葉っぱが厚くて大きい分、葡萄の葉は日除けとして頼りになったし、その葉の間をくぐり抜けてきた自然の風の心地よさは、扇風機の風とは大違いだった。
少し涼しくなった頃、ひと房だけ下がった葡萄を収穫して、夫は『甘い!』と喜んで食べたが、私としては、窓辺の風景のスパイス的な存在となってくれただけで充分だった。
よし、来年は葡萄のカーテンをもっと広げるぞ。と意気込んで、鉢植え葡萄を手入れして迎えた二夏目。葡萄の実は、私には充分すぎるくらいついている。きっと夫はウハウハだろう。
でも残念なことに、7月半ばを過ぎても葉っぱは広がらないまま。今からでも、どんどん、どんどこ、山盛りいっぱい、部屋が暗くなるほどに茂ってほしいのだけれど、どうも今年は無理っぽい。
「あの時、芽かきをしていたら・・・」「あの時、葡萄の実を間引いていれば・・」と、詮無いタラレバを追っかける。
「今、葡萄の実を切り落としたら、葉っぱ増えるか?」と思ったところに「ワシワシワシワシ・・・」蝉の大合唱で邪念中断。
おっと、作業に戻らなくっちゃ。遮光カーテンと熱風かき回し機だけで、この夏を過ごすのはちょいと辛いけれど、2月の展覧会に向けて、ヤクのストール制作作業に待ったなし。