朝晩冷え込むようになって、フェルトのブランケットコートが活躍し始めた。
早起きした朝などは、コートの中で工房の気温が上がるのを待っている。
さて、この『ブランケットコート』というのは、四角いフェルトの布に穴を開けて腕が通るようにしたシンプルな纏いもので、制作のきっかけは、雑誌で見たロンドンの街角のスナップショット。
青年が革ジャンの上に、毛布のような布を巻きつけ羽織っている写真で、その青年が纏っているその布は、毛布をジャキジャキっと切って腕が通るように穴を空けただけのもの。
『あまりに寒いので、僕が長年使っていた毛布を切って羽織ってきました』そんなコメントを勝手に想像しながら、その使い込まれた感満載の布(毛布)を格好良く着こなしている写真に見入っているうちに、このようなシンプルな纏いものを作ってみたいと思ったのだった。
そこで、私も薄手の毛布やらブランケットやら厚手の生地やらを切ってみた。ジャキジャキ、ジョキジョキ。。。だが、どれも良い塩梅の纏いものにはならなかった。
体にしっくりと馴染むような纏いものにするには、袖ぐりの穴の大きさやその穴の位置が重要なポイントで、さらに何らかの工夫も必要だと思った。だが、パターン起こしは私には無理っぽい。そこで、この型紙起こしをパタンナーの友人にお願いした。
私が送付した一枚の切り抜き写真だけを頼りに、彼女はシンプルな作りのパターンを起こしてくれた。
こうしてめでたくブランケットコート制作はスタート。まず160m四方のフェルトの布を作る。そして手が差し込める穴を開ける。アウターの上から羽織るものとして、袖ぐりはポッカリと大きめに。また、体に添うように背の上部にダーツを2箇所とって縫い合わせる。
最低限のジョキジョキとチクチク。
『毛布に包まれている』その感じをエッセンスにしたことから『ブランケットコート』という名前をつけた。
これまでに、ブルー、グリーンとグレーのコンビネーション、ブラックベリー、グリーン、レッドと色を違えて6点作った。
癖のあるものなので気に入ってくださる方がいるかしら?と思っていたけれど、1点1点と売れていき完売。さらにオーダーもいただいた。
「ブラックベリー色で、オリジナルのものよりも丈を短くして」というのがお客様からのリクエスト。オーダー制作はことさらに緊張するが、ドレープが綺麗な仕上がりになって一安心。
お客様へお届けすると『寒いのは苦手だけれど、今年の冬は楽しみです。』と言ってくださった。嬉しいなあ。
私のブランケットコートは緑色で丈が長い。これを纏って外に出ると、寒さや風から身を守る柔らかなおウチみたいに思える。
工房ではまさに毛布っぽいものになる。体をすっぽりと包んで、ストーブの前でうずくまると安心感も一緒に包まれるようで気持ちまで暖かくなる。
そしてこのブランケットコートにくるまってうたた寝をすることも。これを纏って寒いロンドンの街を歩く日がやって来るといいなあなんて思いながら。。。
さて、さて、コートを脱いで作業再開しなくては。